咲かない蕾(つぼみ)後編

 (第三話)短大出身の丸の内OL

 同じ会社の同僚と数人で来ていた。 

目立たず、小柄で、細面と好みのタイプだった。

 帰りは二人きりになり、自宅まで送って行った。

高級住宅地の門構えのあるお宅で、気が怯んだ。

 空が青く、上天気の日曜日、遊園地デート。

池のほとりの葦の背が人の姿を隠すほど高く生い茂っていた。

葦の葉をかき分けながら、池に向かって進んで行き、並んで腰を下ろした。

抱き合っているうちに、彼女を押し倒してしまった。

ついスカートの中を見てしまい、下着をずり下してしまった。

興奮のあまり、頭の中が真っ白になり、後の事は覚えていない。

 次の日、彼女のオフィスに電話すると、「お蔭で風邪をひいた」と

叱られた。 まるで、「折角チャンスをあげたのに無駄にして」と

怒られた気がした。 当然、ジ・エンド、フィニ、終わり。

 

  (第四話)もう一人の丸の内OL

 ダンス講習会で顔は見ていたが、大柄で、派手な感じで、敬遠した女性。

 こちらも東京駅のお濠端にある総合商社に就職して昼食に出掛けた帰り。

横断歩道ですれ違い、挨拶を交わし、名刺を渡したが、それだけだった。

 ところが、ある日曜日、突然彼女のほうがこちらの自宅に訪ねて来た。

帰りは散歩がてら、話をしながら、送って行った。 六本木から渋谷まで

歩いてしまった。 それは話の内容が彼女に対して気の毒なものだったから。

簡単に言うと、こちらは既に結婚するつもりの相手が居り、彼女の気持ちには

応えられない、ということ。 彼女は気が強そうで、平気な顔をしていた。

 申し訳ない気持ちで、「夏休みを取って東北旅行をするのだが、彼女は

父親の反対で一緒に行けない。 良かったら一緒に行く?」と訊いたら、

彼女は喜んでしまい、翌日東京駅前の旅行代理店で一緒に周遊券を買った。

 然し、当日、上野駅のホームで待ったが、彼女は姿を見せなかった。

 もし、一緒に旅行に行ったら、彼女と結ばれたかもしれない。

 彼女の気持ちは分からないが、興奮して行動を起こしたが、出発までの

時間が空いていて、その間に冷静になり、思い直したのだろう。

ややこしいことにならず、彼女の賢い選択に感謝しなければいけない。

 

    (あ  と  が  き)

 文通というのは顔を見ていない。 手紙の文字が綺麗で、文章が女性らしく

勝手に思いを寄せることは充分有りうる。 会ったとたんに、印象が変わり、

自分の気持ちの変化に驚きつつ、興味を失うことは仕方が無い。

 他方、社交ダンスの講習会という邂逅のしかたは、相手の選択範囲という

点では狭い。 文通は全国が対象だが、ダンス講習会で会う相手は都内在住に

限られ、お互いに実家住まいだから、濃い関係に進むのは困難である。 

むしろ、大学生とか専門学校生徒で地方から出て来て、アパート暮らしの相手に

的を絞った方がより魅力的な青春時代を楽しめるのだろう。

 咲かない蕾(つぼみ)ではなく、咲くような環境にある蕾を探そう。